小さな飛行機
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慣れない町の終電を見送って、私は商店街をひとりで歩いた。見上げれば夏の満月。明日は休みだから夜通し彼と過ごしたくて、内緒で部屋に遊びにきた。
どういうわけか彼の部屋はもぬけの殻で、私はがらんとしたフローリングの床に人形みたいに座った。
カーテンすら残っていない室内には商店街の青いLEDと月の光が射しこんで、窓を開けると居酒屋のにぎわいが月の渚のさざなみのよう。
あさってには立秋だ。夏の終わり。人生すら終わった気分。汗ばんだ太ももがフローリングの床にシールのようにくっついて、最後のキスを思い出したら鼻の奥がつんとして湧水みたいな涙。
「小さな飛行機を買ったんだ」
眉尻の吹出物が言う。
「旅に出るの?」
「うん。僕がひと粒乗れるだけの飛行機で」
「私も連れてって」
「だめ。君には君の飛行機があるはずだろ」
買ったばかりの歯ブラシを洗面台に残して、これで空を飛べたらいいのに、そんなことを思った。
どういうわけか彼の部屋はもぬけの殻で、私はがらんとしたフローリングの床に人形みたいに座った。
カーテンすら残っていない室内には商店街の青いLEDと月の光が射しこんで、窓を開けると居酒屋のにぎわいが月の渚のさざなみのよう。
あさってには立秋だ。夏の終わり。人生すら終わった気分。汗ばんだ太ももがフローリングの床にシールのようにくっついて、最後のキスを思い出したら鼻の奥がつんとして湧水みたいな涙。
「小さな飛行機を買ったんだ」
眉尻の吹出物が言う。
「旅に出るの?」
「うん。僕がひと粒乗れるだけの飛行機で」
「私も連れてって」
「だめ。君には君の飛行機があるはずだろ」
買ったばかりの歯ブラシを洗面台に残して、これで空を飛べたらいいのに、そんなことを思った。
公開:20/08/06 12:28
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