競技の名は

各国に設置されたコースの中継が始まった。古い石畳の街道。素晴らしい景色の海岸沿いの道。世界中に映像が流れることもあって、どれも趣向を凝らしている。
「見て」妻が声を上げる。
画面に広がるのは草原。澄みきった空へ続く草原。
「あの噂本当かもな」と横で見ていた夫。
「モンゴル代表はみんな絶対距離感持ってるって？」
「でなきゃこんなコース設定しないだろ」

あの厄災を乗り越え生まれた新競技。
相手との距離を目視で確認しポジションをとり、全員が演技を終えるまで列を保ち続ける。間隔の誤差、並び終わるまでの時間、列の美しさの総合点を競う。
競技人口世界一のこの競技の名は、
ーソーシャルディスタンスラインー
互いに２mの距離を開けて1列に並ぶ。1チーム1001人の2000m、5001人の10000mの部に分かれ競い合う。

初の世界大会を固唾を飲んで皆が見守る。
定められたコースを、いま、並び始めた。