『夜釣り』

ここは釣り場、獲物を求めて大勢が集まっている。
「最近のは賢いな、エサだけ奪って逃げやがった」
「駄菓子なんかで釣れるのは小さいのだけだぞ！」

日も暮れた頃に新しい客が訪れた。
「ぼうや、夜釣りは初めてか？」

小魚は、うん、と頷く。
「簡単なのはミラーボール。騒ぎたがりはすぐ集まるぞ」
教えられながら針先につけて、ゆっくりと陸中に垂らす。するとあっと言う間に大量のニンゲンが食いついてくる。大喜びの小魚の隣で、常連魚は続けた。
「初めて釣ったニンゲンだろ？　食っちまうのかい？　酒臭くて食べられるもんじゃねえぞ」
「ううん、せっかくだから飼うんだ」
「そうかい、なら『空気槽』を用意しなきゃな。ニンゲンは水に潜るとすぐに死んでしまうから」
「わかったよ」
小魚がバケツの中にミラーボールごと放り込んで、スポイトを差し込む。するとニンゲンたちはミラーボールを離れ、先から出る空気に群がりはじめた。