満員電車

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ふと気を抜けば瞬く間に感染の広がるご時世だ。満員電車は、ついぞ見かけなくなった。

「実は学ぶことも多かったんだけどなぁ」。サラリーマンの青年は独りごちる。

高校時代から通学通勤ラッシュに揉まれ続けてきた。自分の居場所をこじ開けるためだけにぐいぐい力業を仕掛けるオヤジがいた。座りたいオーラを露骨に発散させて周りをドン引きさせるオバサンがいた。その一方、妊婦さんやお年寄りのため、少しでも楽な壁際や隅っこを譲ろうと心を砕く同世代の姿が眩しかった。

組んずほぐれつの空間で交錯するエゴと良心。満員電車に揺られながら、人間の本性が丸裸となる瞬間を目の当たりにしてきたと青年は思っている。

あらゆる局面でリモート化が進む。画面の向こうにいる相手は、あくまで画面の向こう。理屈じゃない人の生に接することのできる機会は減るばかり。

「本当に、このままでいいんだろうか」

やりきれない感情を青年は抱く。
その他
公開:20/08/06 17:53

ふみなか( 東京 )

40代半ばの会社員。家族は妻、中3息子、小6娘。つらつらと文章をつづるのが好きです。読んでいただけたら嬉しいです。

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