タリナイ病

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年の暮、スーツの青年が大部屋に運ばれてきた。
「数字がぁ」「売り上げがぁ」とつぶやいていたが、不健康には見えなかったので看護師にわけを尋ねた。「あの人、タリナイ病なのよ。お気の毒に」
きっと、最近ニュースで専門家が口々にしている新病のことだ。不足感にやたらめったらと敏感になるらしい。認知症の派生みたいなものに思っていたが、どうやら年齢は関係ないようだ。お気の毒に。

最初は「腹が減った」「薬が効かない」程度の文句しか言わなかったが、日に連れて要求は大きくなった。
有り余る食事、過剰な治療、広々とした個室、退屈しない娯楽品、万能な召使い、甘やかしてくれる女性…

ある日、ポックリとその男は亡くなった。
あれだけの過剰摂取をしたのだから、さぞ満足げに死んでいったと誰もが口を揃えたが、故人の顔には、いかにも不満げな表情が張り付いていたと言う。
ホラー
公開:20/08/13 15:00
更新:20/08/13 01:04

まのじゅん( 神戸 )

まのじゅん/間野 純
神戸市在住の26歳
執筆は2020年春ごろから

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