大魔神

　その村は善人村と呼ばれ、大魔神に守られていた。
　ある日、隣り村から僧侶が来て、この村の山奥に仏殿を建立した。
　大魔神の鼻がピクリと動いた。
「甘い蜜の匂いがするのぅ」
　そのころ、僧侶は仏殿に村人を集めて悪霊祓いをしていた。悪霊が憑いている。と村人を騙して高額な御布施を巻き上げていたのだ。

　夜。僧侶が金の仏像を磨いていると。大魔神が巨大な顔を窓からのぞかせた。
「サヨナラ」
「だ、大魔神さま！」
　大魔神が言う「サヨナラ」とは、この世を去るべき人間に告げる言葉であった。
「僧よ、悪霊が憑いておる。わしがお祓いをしてやろう」
　大魔神は海水を両手ですくって、仏殿の上からぶっかけた。すると、仏殿も僧侶も川のように流れていった。
「流し僧めんじゃ」
　そう言って、僧侶を掴み上げ、ゴクリと呑みこんだ。
「サヨナラ」

　大魔神は、村人たちに感謝の言葉を背中に受けながら、村を去っていった。