ある女の憂鬱

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長かった梅雨も明け、ようやく夏本番。
「今年はどこに行く?」
「やっぱり日本の風情のあるところがいいわ。」
「外出自粛のご時世だからどこに行っても人はいないかもしれないわねぇ。」
美しい古寺巡りの旅行のパンフレットを前に女たちが楽しそうに談笑している。
「私、この時のために着物を新調したのよ。」
「あら素敵!とても映えるわ。白地に赤って日本の伝統美よね。」
「私も旅行に備えて美容室でセットしてきたの。ちょっと乱れ髪、なんてね。」
「わぁー、色っぽーい!みんなゾクゾクしちゃうこと間違いなしね。」
「今年はこれで…」
「今年はこれで…」
うふふ…
と、彼女らには外出自粛も3密も関係なしのようだ。

その横で大きなマスクをつけたひとりの女が寂しげにため息をついた。
「いいわね、みんなは。
あたしなんて今年は出番さえ無いわ。だって人に話しかける時にマスクを外しちゃいけないって言うんだもの…。」
その他
公開:20/08/03 13:40

文月そよ

のんびりゆるぅり書いてみたいと思います。

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