叩き道

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「叩くときは自らも痛みを感じないといけない」私に叩きを伝授した父はそう言った。叩き道、一筋。
蠅叩き、布団叩きなど、様々な流派があるが、我が道場は肩叩きだ。初めて父の肩を叩いた時に、頼もしくとても広く感じた。背は追い越しても父は私の師範だ。今大会で立派になった姿を見てもらいたい。
片膝をつき、構えの姿勢をとった。目の前の背中と向き合う。深呼吸して叩くべきものに集中した。パン!気合を込めて一点を叩く。肩から白いものが立ち上り、ギイという声。目の前の背が振り返る。
「あれ、肩が軽い」
「悪霊を叩き出しました」
「ひどい肩こりだと思っていたよ」
感謝の礼を受け取り、観客席の父を見た。笑顔で頷いている。
対戦を終えた私に、父が老いた背を向けた。覚悟を決めて肩を叩く。刹那、心に痛みが走った。
「そう、それが本物の労いの肩叩きだ。お前はもう私を超えたよ」
そう言った父の背中は、やはり広く大きく見えた。
その他
公開:20/08/04 11:45
空想競技

むう( 地獄 )

人間界で書いたり読んだりしてる骸骨。白むうと黒むうがいます。読書、音楽、舞台、昆虫が好き。松尾スズキと大人計画を愛する。ショートショートマガジン『ベリショーズ 』編集。そるとばたあ@ことば遊びのマネージャー。

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