バニラアイス

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彼は長い時間をかけて作った鉄道模型を部屋に広げて目を細めて見ていた。日曜日の昼下がり、彼の唯一の楽しみである。鉄道ジオラマには主要駅、駅ビル、プラットホーム、ホームゲートなどを小さな階段まで精確な縮尺で広がる。駅から出た電車がビルや公園の間を縫って走る。ホームには駅員が立つ。電車を目で追ううちに彼はいつしか電車の中の乗客となっていた。駅のホームにするすると入る。電車が止まる。「ホームゲートにもたれないでください」。ホームゲートが開く。彼はホームに降りた。
そのとき彼の妻が部屋に入ってきた。アイスクリームコーンを二本手にしている。「あなた、どこなの。暑いからアイスクリームいかが?」
妻は一つを手に取るとアイスを舐めながら彼を探した。ジオラマの上に球体のアイスクリームがぼとりと落ちた。ホームゲートと彼の上を覆うように冷たい溶岩のようなバニラアイスの巨大なかたまりが落ちて溶けはじめた。
その他
公開:20/08/03 16:52

たちばな( 東京 )

2020年2月24日から参加しています。
タイトル画像では自作のペインティング、ドローイング、コラージュなどをみていただいています。
よろしくお願いします。

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