汗をかかない決勝戦

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 熱帯夜のスタジアム。聴衆の熱い視線の中、30分前計量が行われた。これは、戦いを有利にするために、選手が極度の水分制限を行っていないかをチェックするものだ。この競技の選手は極限まで水分を控え、物理的に発汗量を減らそうとする。もちろんこれは生命にかかわる危険な行為のため、選手それぞれの下限体重が設定されており、それを下回っていた場合は不戦敗となる。
 両者はギリギリでクリアし、それぞれの控え室へ戻った。
 控え室で選手は、時間まで精神集中しながらストレッチをしている。この競技に必要なのは柔軟性と自制心だ。
 会場の気温、風力、湿度が発表されると、両陣営は持ち込んだ物の中で最適なベビーパウダーとパフとを選択する。
 自らの全身にパウダーをはたき、ティッシュペーパーを敷き詰めた競技場を規定どおりに転がって、体にテイッシュがくっついた枚数が少なかった方が勝ちとなるこの競技。
 いよいよ決勝である。
その他
公開:20/08/01 12:25

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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