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湖畔のコテージには毎夏、十数名が三週間ほど避暑に滞在する。メアリーはここで働くアルバイトの女子学生、二度目の夏である。
テラスは湖に面して、白い椅子が一脚ずつずらりと並ぶ。年配の客の多くは日永、椅子に座って湖と空を眺める。メアリーは懇意になった客から、それが特別な席であると聞いた。ある人はさざ波に家族の面影をみたり、またある人は青いばかりの空に湖面を跳ねる子供をみたりするという。
「蜃気楼ですか?」メアリーは老婦人に尋ねてみた。
「映画みたいなものかしら、サイレントだけど」
「どのくらい見えるのですか」
「いろいろね、長かったりあっという間だったり。なんだかほっとできるの」
「昔の懐かしいお姿とか?」
「というより、もうすぐ体験する世界を見てるような、予習している気分よ」
椅子に座っている客を見ると、彼らの姿がときどき霞んで薄くなるのにメアリーは気がついた。
気のせいかなと思ったけれども。
その他
公開:20/08/02 15:18

たちばな( 東京 )

2020年2月24日から参加しています。
タイトル画像では自作のペインティング、ドローイング、コラージュなどをみていただいています。
よろしくお願いします。

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