竜に乗って

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死期を悟った老人がいた。天に祈っていた。「最後のお願いを聞いてくれないか」

「死を覚悟すると、それまで見えなかったものが見えてくるんじゃ。ヤンチャばかりの人生だったが、最後くらい、世間様にご奉公したい。竜に乗れば、それがかなう」

すると、天から竜が降りてきた。老人をひょいと背中に乗せ、ぐるぐると螺旋階段を駆け上がるように超高速で昇天を始める。

地球上に、まるで洗濯機の中のようなカオスが渦巻いた。台風を遥かにしのぐそのカオスは、ウイルスというウイルスを吹き飛ばした。

竜の背中にしがみついていた老人は、竜と一緒に天に昇った。

「死を覚悟すると、それまで見えなかったものが見えてくるんじゃよ」

架空の存在だと信じられてきた竜の姿が見えた。人々を苦しめてきたウイルスの姿が見えた。自身の前世も。

老人の前世は仙人だった。そして、秩序だっているように見える世の中は実はカオスなのだった。
その他
公開:20/08/02 13:30

ふみなか( 東京 )

40代半ばの会社員。家族は妻、中3息子、小6娘。つらつらと文章をつづるのが好きです。読んでいただけたら嬉しいです。

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