呼ぶと増える

「「呼んだ？」」
増田さんは、呼ぶと増える。だからみんな呼ばないようにしてる。彼女を呼んじゃうと人が一人増えてしまう。だからみんな彼女に関わろうとしない。面倒だからだ。
いつも寂しそうだけど、事情がわかってるからみんなが話すわけにもいかない。
　たまに彼女の名前を呼ぶ。彼女はそういう時不思議な顔をする。僕が死んでいるか？僕の声が聞こえるのは彼女だけだ。
　たまに魔が刺す。
「増本さん」「増本さん」「増本さん」「増本さん」「増本」「増本」
「「「「「「呼んだ」よね」なんで」そんなに」よぶの」やめてよ」
嬉しそうな顔で全く同じ顔の女の子が増えていく。皆一様に嬉しそうだ。
　増えた彼女はしばらくすると薄れていく。名前を呼ばないと消えしまう。僕は彼女に呼ばれる。彼女も僕のことを呼んでくれる。僕と話してくれる。
僕のことは見えなくても、二人でいることが嬉しい。