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彼と外で会うのは久しぶりだった。店の入り口は開け放たれ、素敵な吊り下げ看板は見えなくなっている。消毒液を手に擦って入った。
狭い店内は少しテーブルを減らしてあり、透明アクリル板が置いてある。馴染みの店員さんもフェイスシールド姿だ。
ここまでしなくても大丈夫じゃないの。彼は私を見て肩をすくめた。
お気に入りの奥の席は埋まっていて、二人連れのお姉さんたちが、嫌な店長について延々と愚痴ってるのが見えた。
私たちが座ると店はもう満席だ。入り口近くのテーブルでは昨日の雨のニュースの話。隣りのテーブルは、サッカーファンのグループらしく、週末の試合の判定についてほとんどケンカに。
なんて賑やかなんだろう。
昼休みに入った定食屋で、ただひたすら食べていたのを思い出す。
飛沫が感染源と言われて、みんな口を閉じてしまった。
でもここに居る私たちは気にしない。私たちの言葉は止まらない。

私たちは、手で話す。
その他
公開:20/07/30 20:28

工房ナカムラ( ちほう )

ボケ防止にショートショートを作ります

第二回 「尾道てのひら怪談」で大賞と佳作いただきました。嬉!驚!という感じです。
よければサイトに公開されたので読んでやってください。

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