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新しい家には蜘蛛が出た。入ってすぐの玄関。トイレの天井。床の隅。
「いやねえ。蜘蛛除け焚かなきゃ」
お母さんがそう言って業者をよんできた。吹きつけるだけで死んじゃう、強力な薬を頼んだ。
「本当にいいんですね?」
「いいの、やっちゃって!」
処置は直ちに行われた。お母さんは満足そうだ。だけど、私は不思議だった。
「なんで念押ししたんですか?」
業者に聞くと、少し困った顔をした。
「蜘蛛って、益虫ですからね。こう言っちゃあなんですが…いいのかなって」
業者はそう言って言葉を濁した。
あれから、蜘蛛はどこにもでてこない。居間にも、お風呂場にも。すっかり影もなくなった。
「やってもらってよかったわね」
お母さんが笑う。それからボリボリ肩を掻く。肩は半分えぐれてる。顔も、穴だらけだ。
「お母さん、病院に行こう?」
そう言ってもお母さんは笑うだけ。多分、中までやられてる。
この家に、もう蜘蛛はいない。
ホラー
公開:20/07/31 21:44

風月堂( 札幌 )

400文字の面白さに惹かれて始めました!
文字や詩のようなものを書くのが趣味です。
情緒不安定気味でアゲサゲ落差のひどい人間ですw
いろんな方々の作品を読んで、心を豊かにしていきたいです。

無料の電子書籍をつくりました。
『ショートショート作品集カプセルホテル【】SPACE』
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『枇杷の独り言』
ショートショートコンテスト『家族』最優秀賞頂きました。

写真は全て自前でやっています(笑)

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