参加することに意義が

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眼下に銀色の光の粒が瞬いている。その中の一点が急に赤くなる。
こんな直前にトラブルか。この地区の『盆レース』を統括している私は頭を抱えた。
前日辞退したいと言ってきた死者だ。一度は納得したのだがまた気を変えたのか。
「リタイヤでいいんじゃないですか」
部下が投げやりに言う。無理もない。昨日説得したのは彼だ。しかし、このレースは参加することにこそ意義があるのだ。
私は死者に呼びかけた。

死者は自分の恐れを訴える。帰ったところでもう忘れられてしまっているのではないか。
人の形を留めているうちは心も生者に近いのだろう。
私は言葉を尽くし説得した。

「さすがですね」
遅れたが無事全員スタートした。
いずれ時が過ぎ、人の形もおぼろになれば、この帰還もただ懐かしいばかりになるのだ。
あの死者にもいずれわかるだろう。
天界から地上に向かって走る光の粒たち、その軌跡を目で追った。今年も無事届くように。
ファンタジー
公開:20/07/29 22:53

工房ナカムラ( ちほう )

ボケ防止にショートショートを作ります

第二回 「尾道てのひら怪談」で大賞と佳作いただきました。嬉!驚!という感じです。
よければサイトに公開されたので読んでやってください。

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