早送り

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「キミ、もう少し注意して仕事をしてくれないとね……今週、二度目だよこういう間違いは」
 声を荒らげるようなことは無く、いつも穏やかに優しげに……そういう感じで、反対に言うと、ネチネチと。
「ああ、うっとうしい……」
 私は上着の右のポケットにソッと手を入れて上司の小言に迷わずボタンを押した。これは「人生早送り機」。手の平にスッポリ収まる程度の大きさで、ボタンが一つ付いているだけのなんとも味気の無いデザインだが、ボタンを押しているその間の人生が普通の人生の10倍速で進んでいく。例え早送りしたとしても、上司の小言を聞いたという記憶はちゃんとある。だが1分が1時間にも感じられるこの瞬間をササッと進めてやり過ごしてしまえるのが、この機器のいいところだ。私は、これを手に入れてからずっと、人生の中で耐え難いことや無闇に忍従を強いられるようなことを早送りして過ごしているのだ。
その他
公開:20/07/28 18:33

N(えぬ)( 横浜市 )

読んでいただきありがとうございます。(・ω・)/
ここに投稿する以外にも、自分のブログに同時掲載しているときがあります。

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