金曜日の夜は酔いにまかせて

急ぎすぎるのは私の悪い癖だ。金曜日の夜風は女心を少しだけ大胆にする。私の場合もそれは例に漏れない。

「答えは一度持ち帰らせてもらえるか？」

無重力に宙を舞うような酔いにまかせた愛の告白に、部長はそう答えた。ボルドーがかったブラウンのスーツに大人の色気が滲む。

「今夜はもう遅い。送ろう。」

恋は好きな人の周りに星を見せる。と少女漫画で読んだことがある。星はおろか辺りはもはや銀河を形成しつつある。

「気をつけて乗りなさい。」

月明かりを浴びた部長の横顔を独り占めしたい！欲望に駆られ、酸素が足りなくなる。不倫でも関係ないッ！私は唇を部長に近づける。カツンと宇宙用ヘルメットがぶつかる。

「君は事を急ぎすぎる」

部長はヘルメットを脱ぎ捨て、唇を私に重ねた。発射スイッチが押されスペースシャトルは飛び立つ。

宇宙スーツのボルドーブラウンが無重力下でやはり大人の色気を匂わせる。