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蝉の翅は葉脈が通っている。
地面に捥ぎ残された油蝉の片翅に、僕はふと思ったのだ。
蝉の血は、樹液が半分混じった様なもの。翅脈はきっと、細胞壁のセルロースで出来ている。艶のある褐色に走る緑が、あまりに生き生きと鮮やかだったから、その他の行方について、考えたくなかったのかも知れない。
蝉の聲は葉風が謡っている。
蝉の殻は樹皮が抱いている。
蝉の眼は緑陰が守っている
ジジジ、と蝋燭の尽きる様な音がして、仄暗い梢上からもう一枚、大きさの違う翅が舞った。
右へ左へ揺れながら着地する翅を、あぁこれは翼果だったかと、僕はその時思ったのだ。
蝉の卵は種子に成っていく。
蝉の翅は萌芽を運んでいる。
蝉の躯は苗床を育んでいく。
この樹はいつかの夏、根源へ還った蝉の一匹なのだ。
音の無い樹下へ伏す翅の基部は、確かに地中へ向けて、細い根を伸ばし始めていた。
地面に捥ぎ残された油蝉の片翅に、僕はふと思ったのだ。
蝉の血は、樹液が半分混じった様なもの。翅脈はきっと、細胞壁のセルロースで出来ている。艶のある褐色に走る緑が、あまりに生き生きと鮮やかだったから、その他の行方について、考えたくなかったのかも知れない。
蝉の聲は葉風が謡っている。
蝉の殻は樹皮が抱いている。
蝉の眼は緑陰が守っている
ジジジ、と蝋燭の尽きる様な音がして、仄暗い梢上からもう一枚、大きさの違う翅が舞った。
右へ左へ揺れながら着地する翅を、あぁこれは翼果だったかと、僕はその時思ったのだ。
蝉の卵は種子に成っていく。
蝉の翅は萌芽を運んでいる。
蝉の躯は苗床を育んでいく。
この樹はいつかの夏、根源へ還った蝉の一匹なのだ。
音の無い樹下へ伏す翅の基部は、確かに地中へ向けて、細い根を伸ばし始めていた。
その他
公開:20/07/27 22:35
油蝉(アブラゼミ)
翼果(よくか)の翅
創樹(もとき)と申します。
葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書きもどきをしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.13執筆&編集
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。
【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞 2022年6月作品集出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞
第二回ひなた短編文学賞 双葉町長賞
いつも本当にありがとうございます!
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