柱時計の記憶

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雨戸は閉め切られ、館の中は黴臭い湿った空気が漂っていた。
ご主人様が去ってどのくらい経つのか。ゼンマイを巻いてもらえないと、時計であっても時間の感覚をすっかり失っている。

どこからか子供の声がし、分針がぴくりと震えた。
「幽霊なんかいるわけないだろ」
「でも…」
玄関扉がこじ開けられ、少年の細い足が見える。
力が入った。あの頃、ご主人様を訪ねて来た客は皆、私を見て素晴らしい柱時計だと褒めてくれたものだ。わずかに残っていたプライドが錆びた振り竿を鳴かせ、ギリギリと歯車を噛み合わせる。
なんたる高揚。時が戻ったような幸福に、私の中の時間が動き出していた。

ボォォ…ン。

くぐもった音が半時間を知らせ、少年が悲鳴をあげて逃げていく。
部品の折れる音がし、振り竿を振る感覚が無くなる。
それでも心は満たされていた。
薄れる意識の中、ご主人様が私を見つめ、誇らしげに微笑んでくれていたのだから。
ファンタジー
公開:20/07/26 08:41
更新:20/07/26 08:42

森川 雨

ショートショートには不向きな書き方かもしれませんが、こちらで修行させていただきたくお邪魔しました。

よろしくお願いします。

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