風乗り

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スタート地点の東京スカイツリーの頂上には各国の選手が集う。
国旗が描かれたナショナルカラーのスカイスーツとヘルメットを身に着け、サーフボードのような板を抱えた選手たちは、太陽の光が照りつける真夏の青い空を眺めながら集中力を研ぎ澄まし、静かに自らの順番を待つ。
そして順番がきたとき、自分に合った風が吹いたら手を挙げ、板の上に足をかければ競技開始だ。
板状のドローンに乗り、風を切って走行する風乗りは、今や海の波に乗るサーフィンと双璧の人気スポーツとなっている。
気まぐれに吹く風を波のように操り、空を海のように渡っていく。
競技ではタイムも重要だが、風乗りの美しさも審査対象だ。
華麗に空高く舞い上がり、指定された周回コースを駆け巡る。
鳥のように羽ばたき、飛行機雲より速く突き進み、入道雲の中を抜け、折り返し地点の富士山で雲海を越え、ただ無心でゴールだけをめざす。
母国の代表という誇りを胸にーー。
その他
公開:20/07/26 20:15
「空想競技」 東京スカイツリー ヘルメット サーフボード ドローン サーフィン 飛行機雲 入道雲 富士山 雲海

SHUZO( 東京 )

1975年奈良県生駒市生まれ。奈良市で育つ。同志社大学経済学部卒業、慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科修了。
田丸雅智先生の作品に衝撃を受け、通勤中や休日などで創作活動に励む。
『ショートショートガーデン』で初めて自作「ネコカー」(2019年6月13日)を発表。
読んでくださった方の琴線に触れるような作品を紡ぎだすことが目標。
2022年3月26日に東京・駒場の日本近代文学館で行われた『ショートショート朗読ライブ』にて自作「寝溜め袋」「仕掛け絵本」「大輪の虹列車」が採用される。

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