獣になりたい者

もっと早く！もっと速く！世界最速の男になりたいと願う俺は日夜走り続けた。
しかし、この世には努力だけではどうにもならない事がある。
才能・体格、そうしたものはどれだけ望んでも得られない。
ならば、と俺は捨てる事を選んだ。
人である事を捨て、獣として生きよう。
俺が獣になった時、人を越えた速さを手に入れている事だろう。

「…と、言って山籠もりから帰ってきた息子がこれです」
「ちょっとお母さん…これってイノシシじゃないですか…ふざけているんですか？」
「いいえ、私は真面目です。考えてみてください。人であった者が獣に変わるんですよ。漢字で書くと”人者”が”猪”になるんです」
「成程…ところで息子（猪）さん（仮）。スタートのピストル音にビックリして山に帰ってしまいましたよ」