理不尽なつぶ貝

冷凍つぶ貝1kgを貰った。7年付き合っている彼女からの誕生日プレゼントだ。
「好きでしょ？」
はい、好きです、大好きです。回転ずしに行ったらつぶ貝を10皿食べるほど好きです。
「賞味期限は冷凍で1か月よ」
わかりました。1か月以内に完食します。

と言ったのだが、最後の2切れがなかなか食べられない。食べたら無くなってしまう。そう思うと手が出ないのだ。
「まだ食べ切ってないの？」彼女が冷凍庫を覗いて言う。
「食べたら無くなっちゃうと思うとさ」
「無くなったらまた買えばいいじゃない」
「うーん、自分で買うのもちょっと違うんだよな。キミがくれたと思うからより美味しいし、より大事に食べようと思うんだ」
「ふーん」
「何、そのどうでも良さそうな相槌」
「つぶ貝の貝言葉って知ってる？」
「か、貝言葉？そんなのあるの？」
「もう、いい！」

10年後、彼女は貝言葉の第一人者として忙しい日々を送っていた。