息を吸うと、秋の匂いがした

6
4

息を吸うと、秋の匂いがした。
黄昏時の空はどこか寂しく、雲は赤色から藍色へと移り変わる途中だった。
オレンジと藍色の空の間で一番星が負けじと輝く。
自転車を押しながら、湿った草の匂いを感じる。この匂いが実は少し好きだ。

幸せの選択肢が少ない学生時代は、この空を知っていること、湿った草の匂いの中帰ることを少し特別に感じていて、車で走り去る大人たちをもったいないと横目で見ていた。

そんな私も今となっては社会人になり、故郷を離れ、街中で1人暮らしている。

車も手に入れた今、空の色も、草の匂いも分からなくなってしまった。

お金を手にし、大規模な事ができるようになった反面、それを叶えた直後には、昔の「夢だったこと」は泡のように消えていった。

幸せの基準が変わってしまったことに気づいたが、寂しくても、乾いた笑い声しか出せなくなってしまった。
その他
公開:20/09/27 11:56

紀奈子

ふと感じたこと、昔の思い出などを元に、日常のちょっとした事などを書いたりします。
拙い文章ではありますが、もし1人でも共感してくださる方がおられたら嬉しいです。
完全に自己満足の趣味なので、色々大目に見てやってください。
それにしてもアレですね、400文字に収めるって結構至難の業ですね。

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容