海花火

「潮のにおいの成分ってトリメチルアミンなんだってさ」
「ふーん」
「あと、ジメチルスルフィド」
「へー」
「だから、その二つを入れたらどうかと」
「ん、まーいいんじゃない？」
「ついでに波の音と同じ周波数を発生させる装置もぶち込んじゃおうかと」
「え、入るか？あんまり大きい装置だとねずみ花火じゃなくて大蛇花火になるぞ」
「大丈夫だ、俺を信じろ。小型化は得意分野だ」

夜。病院の庭。病棟の窓からはたくさんの顔が覗いている。
「じゃあ始めます。窓を開けて、音とにおいも楽しんでください」
庭に散らばったスタッフが一斉に花火に火をつける。ねずみ花火がクルクル勢いよく動き出す。潮の匂いを放ちながら。波の音を奏でながら。波紋を描くようにクルクルと回っている。最後にザザーンと大きな波しぶきの音がして、ねずみ花火が破裂した。

夏が終わった。

来年はみんなで海に行けますように。