推理作家の遺した暗号

始まりはネットだった。
人気推理作家、宇曽川大輔の最終作『氷の館殺人事件』に暗号が隠されている。それを解くと真犯人が分かるというものだった。
暗号にあたる文字をすべて書き出し、小説で用いられたトリックや、作中に散りばめられたヒントを元に解いていく。中には編集部に直接問い合わせる者もいた。
しかし、二年が経っても暗号を解く者は現れなかった。眉唾だったのではと囁かれ、次第に熱も冷めていく。
そして、それは起きた。
『暗号を解いた者に賞金一千万円を与える。詳しくはウェブで』
それまで沈黙を守っていた出版社が、テレビとのタイアップで大々的に発表したのだ。日本中が沸騰した。
ファンではない者までもが狂ったように宇曽川の本を買い求め、暗号解きに夢中になった。

杉本は鳴りやまない電話を前に、この企画の発案者である堂島を見た。
「いいんですかね、こんなことして。本当は、あの小説に暗号なんてないのに……」