曇りのちエクレア

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最後に笑ったのは、最後に泣いたのはいつだろう。怒り。それだけがあった。

曇天、高架下。
地に伏せる不良達を目の端で見下ろす。"雷神"なんてダサい通り名が付いたのはいつからか。怒りと暴力に任せ喧嘩に明け暮れた所為か、名前がトオルだからか。

ーーガタンゴトンガタンゴトン

曇った空のように鬱屈とした日々。心を支配するのはいつも当てどころのない怒り。マグマのように彼を灼いた。暴力と痛みだけが、打ち払う唯一の術だった。

「また、喧嘩をしたの?」

絆創膏を差し出す笑顔がそこにあった。幼なじみのまひろだ。

「結構、腫れてるね。痛そう…」

まひろがあざに触れ少し痛むが、指先は優しい。

「食べる?駅前で買ったの」

箱を開けるとエクレアが2つ入っていた。黙って頬張る。

「それはどっちの顔?」

口元は綻び、目頭が熱くなる。

カスタードの甘味と仄かな苦味でトオルの表情は、天気雨に濡れた。
青春
公開:20/09/26 19:13
更新:20/09/26 19:39
洋菓子短編 エクレアはフランスのお菓子 フランス語で稲妻の意

空津 歩( 東京在住 )

空津 歩です。

ずいぶんお留守にしてました。

ひさびさに描いていきたいです!


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