天平巻き

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奈良公園を歩いていると、鹿煎餅屋に混じって『まほろばの味 天平巻き』という幟旗を掲げる屋台を見つけた。
物珍しく近寄ってみると、干瓢巻きにしか見えない。
「干瓢巻き、ですよね?」
「いいえ、よく間違えられるのですが、奈良時代より伝承されている食べ物で天平巻きです。当時、僧侶だった行基が考案したもので、お米に瓜の粕漬け(奈良漬け)を挟んで紫菜(海苔)で巻いたものです」
行基といえば、貧しい人々を助けるための布施屋を設け、東大寺盧舎那仏坐像(奈良の大仏)造りに尽力した傑物だ。
物は試しに一本だけ天平巻きを買い求めた。
道すがら天平巻きを食べていると、急に周りの雰囲気が変わり、行基と思しき人物が流行り病や飢えに苦しむ人たちに天平巻きを分け与えていた。
天平巻きを食べ終えると、元の景色に戻った。いま来た道を引き返しても鹿煎餅屋があるだけだった。
ただ、東大寺大仏殿にある天平の甍が燦然と輝いていた。
その他
公開:20/09/25 19:23
更新:20/09/25 23:56
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山田衆三( 東京 )

1975年奈良県生駒市生まれ。奈良市で育ち、大学時代は京都(御所の近く)、大学院時代は湘南(海ではなく山側)で過ごす。
田丸雅智先生の作品に衝撃を受け、通勤中や休日などで創作活動に励む。
『ショートショートガーデン』で初めて自作「ネコカー」(2019年06月13日)を発表。
読んでくださった方の琴線に触れるような作品を紡ぎだすことが目標。

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