卯の花狩りの季節

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山肌の薄化粧も近付いて踏みしめれば随分と足を取られる。
標高は二千。重くなった手足を引き摺るように、尾根を進む。

「あと一息で卯の花スポットだぞ。気張れ」

先導する先輩の激励に息の切れた僕は満足な返事もできない。
手足は凍え肺の中まで冷たいのに上体はカッカと熱を持つ。
僕はただ、最高に美味い酒の肴があるからついて来い、と誘われただけなのに、何故こんな辛い思いをしているんだろう。

「ほら見えたぞ」

先輩の指す方向白い雪原にはチラホラと緑の葉が見えている。
近づくと葉に鎮座するように薄いベージュの塊が乗っているのがわかる。卯の花だ。

「天然物だ。うまいぞ」

先輩は指で掬い取るようにしてそれを口に運ぶ。僕も続く。
冷たい塊が口内の熱でホロリと解け、まろやかな塩気と旨味が広がる。抜群にうまい。

「山小屋でこいつを肴にポン酒で一杯やるぞ」

真白なアルプスを背に、先輩は二カリと笑った。
公開:20/09/23 17:29

エビハラ( 宮崎県 )

平成元年生まれ、最近はショートショートあまり書いていませんでした汗
ログインできてよかったぁ…

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