車いすカヨコさんのふらっと散歩

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加代子は車椅子のハンドルを思い切り回すと、直径5メートルのキャタピラが唸りを上げた。
車椅子は進む。デザイン性だけを重視した無意味な段差、20度の勾配、溝が深すぎるタイル、小さすぎるエレベーター、それらを次々と踏み潰して。
警察が到着した。通報から、10分経っていなかった。多目的ホールと言う名の癒着の産物が、更地になっていた。
「止まりなさい!」
警察はマイク越しに叫ぶ。車椅子は止まらなかった。
舌打ちをした。銃を構え、車輪に向かって撃った。甲高い金属音だけが鳴った。車椅子は止まらなかった。車体は、バリアフリーバリアでくまなく守られていた。
「野口加代子、お前の目的はなんだ」
「バリアフリー社会の実現ですー」
呑気な声が、スピーカーを通して聞こえた。
車椅子は、市役所に向かって進んでいた。通り道が、等しく平らになっていた。
その他
公開:20/09/23 12:53

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