思い出のマニ車

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幼少の一時期、松山に住んでいたことがある。漱石の「坊っちゃん」で有名な辺りだ。
伊予鉄で高浜まで行きそこからフェリーで十分ほどの場所に興居島という島があって、一度だけ家族で遊びに行ったことがある。

島内の寺へと続く石段の手すりに、マニ車と呼ばれるチベット仏教に端を発する円筒状の仏具が並んでいて、時計回りに回すと功徳が得られるとされている。
幼い私は意味もわからず、とにかく良いことがあるのだと思い頑張って何度も右へ回した。

帰路、揺れる三両編成の窓から遠のく海を眺めていて、ふと思い出した。正面から見た円筒を右に回したということは、マニ車は反時計回りに回っていたのだ。
私は泣きながら父にそのことを伝えた。父は笑いながら答えた。
「右とか左とか、仏様はそんな、ちっちゃなことは気にせえへん」


私が四度目の独立起業で成功を収めたのも、案外受け継いだその楽観が、腕を示してくれたのかもしれない。
その他
公開:20/09/27 07:00

レオニード貴海( 某海なし県 )

さまようアラフォー主夫

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