少女の記憶

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982年前、ユリシア王国。
空がゆっくり動いていたあの日。
王宮に仕える者の中に、前世を視るその女がいた。
「アルブネアはいるか」
「はい、王子よ。お呼びでしょうか」
王子は彼女を側近にしたいと思い見た。
彼女もまた王子の側近になり、部下に少しも傲慢な態度も見せない彼の側にいたいと望んだ。
王子は継承権が低かったが、他の王子に嫉妬せず、彼は誠実で周りから好かれていた。
「何か望みはあるか」
「わたしは自分を知りたいのです」
「その前世を視る力は自分には使えないのか」
「どうにも視ることができず」
「……どうかしたか?」
「あの、王子には欲はないのでしょうか?少し心配になります」

「そうだ、お前にはまだ言ってなかったな。私はな、神になりたいんだ。王など眇眇たるもの端から興味がない」

真実は一つ。彼が真実だと思った。

これが彼女の前世の記憶だ。
公開:20/09/24 13:51
更新:21/01/08 19:47
「時の記憶」「神の記憶」の続編

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