犬なら犬で

逃亡先のフランスで私は日本の占い番組を見ていた。
「出逢いなら川のそばに転がってるよ。拾ったら優しく磨いてね。ラッキー練りものははんぺん」
逃亡生活は孤独だ。
あの日あなたは嫌がるハクビシンを引きずりながら、ガロンヌの河畔を散歩していた。
「かわいいハクビシンね」
私が声をかけるとあなたは困り顔で「犬です」と言った。
屋台で買ったというその犬は明らかにハクビシンだ。
あなたは私から逃げるように駆け出して、そして転んだ。胸のはんぺんチーフに私は運命を感じたの。
「名前は？」
「甘い記憶」
「ハクビシンじゃなくてあなたの」
「犬だってば」
「騙されたのよ」
それであなたは心を閉ざした。純白のはんぺんは原色に染まるとすっぱい。
私はあなたを優しく優しく磨いて、消えてなくなってから後悔したわ。酷いことを言ったって。犬なら犬でいいのに。
あれから私は甘い記憶と暮らしてるの。いつまでも懐かない犬と。