僕の命も大切だ

僕は真っ黒なマスクに自分の名前を書いて、帽子を深くかぶる。まだ暑い日の続く街の雑踏を歩く。
シングルマザーではない。給食も食べているよ。合成洗剤で肺が苦しくなったこともない。お父さんから暴力を受けたことだってない。コロナの怖さはピンときていない。とても暑いけれど、街を歩くくらいは平気さ。
ただ、なんだかとっても痒いんだ。頭も口のまわりも汗疹だらけで、このシャツもなんだかチクチクするよ。とっても暑いけれど、お父さんの言いつけで、子供は昼間から家にいてはいけないって。とっても暑いけれど、これは日本のせいではないんだって。いつもお腹が空いているのは生長している証拠だって。お母さんがそっと渡してくれる百円玉は密かに貯めている。明日の給食はおかずが二品出るといいな。