この世でもっとも怖い映画

「この世でもっとも怖い映画とは、どんな映画だと思うかね？」
　教授は集まった生徒たちに問いかける。
「圧倒的な敵がいる映画ではないでしょうか」
「理解できない存在に相対することこそが、最も怖い『恐怖』の形だと思います」
「感情の落差こそが恐怖の源泉だ！」
　議論は活況をきわめた。意見が一通り出尽くしたと思われたとき、教授は片手をあげ、生徒の視線を集めてから続けた。
「君たちの意見は間違ってはいない。だが、もっと大切な要素がある。それは――共感だ。つまり、画面の中で行われていることが、次の瞬間には、自分の身に降りかかるのではないか……そう思わせて初めて人は恐怖するのだ」
　それまで生徒たちを見渡していた教授は、すっ……と視線をあげる。そして……こちらを見つめた。
「そうじゃないかな？　そこでこれを読んでいるあなた。画面に映る顔が見えているよ。高みの見物はこれまでだ。君も議論に参加したまえ」