生きる、を知る

18
14

「他でやってくれない」
屋上の壊れた柵から一歩踏み出そうとした時、女の子が尖った声で叫んだ。
「目の前、病院よ。友達が手術中なの邪魔しないでくれる」
女の子の迫力に負けて、柵から離れた。
「あなた、身体が透けてる」
「何だ、喋れるんじゃない。死んだのよ、私、病気で」
「苦しかった?」
「当たり前でしょ! でもね、死ぬときはどんなに穏やかな死でも苦しいのよ。楽な死なんて一つもないんだから。だから、どう生きるか、でしょ」
幽霊の女の子は、怒りで身体中から煙が出ているようだ。水溜まりに映る私は鈍より濁っている。
「そうやって、辛い顔ばっかりしていると、どんどん悪いものが寄ってくるの。見て」
幽霊の女の子はどんどん黒くなって見えなくなった。
「ごめんなさい! ごめんなさい」
「愚痴くらい聞いてあげるからさ。一緒に祈ってよ」
元に戻った女の子は祈り始めた。私は顔を上げぎこちなく祈る。生きて、と。
その他
公開:20/09/22 23:47

射谷 友里

射谷 友里(いてや ゆり)と申します
十年以上前に赤川仁洋さん運営のWeb総合文芸誌「文華」に同名で投稿していました。もう一度小説を書くことに挑戦したくなりこちらで修行中です。感想頂けると嬉しいです。宜しくお願いします。

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容