わすれもの

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——チョキン。
「終わったよ」
 ずっと使っていなかったそのハサミは、綺麗に研いで油をさしてやると、意外にもちゃんと使えるようになった。

20年も前になる。小学校のころ、クラスが変わってはじめての図工の授業で、祐太はある事に気がついた。
「ハサミ忘れちゃった……」
祐太は忘れ物をしたことを誰にも言い出せず、涙をこらえてうつむいていた。
「はい。これ」
顔をあげると、目の前にはピンク色のハサミが差し出されていた。
「これ、私いつも予備で学校に置いてるの。貸してあげる」
これが美咲との出会いだった。

「——もう目あけていい?」
「どうぞ」
美咲はまぶたをそっと開くと、目の前の鏡を見て頭を右左に動かした。
「やるじゃん」
「まあ、これでもプロだからね」
「違うよ、そのハサミ」
「ああ。意外とイケるもんだな」

美咲は鏡越しに笑って言った。
「早く返してね。予備で置いとくんだから」
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公開:20/09/22 18:42
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花脊タロ( 京都 )

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