いつか宇賀神

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細く長いれんこんの穴を歩く日々。私は人々の幸せを願い、曇天の房総半島でワンピースを脱いだ。
高台は少し肌寒いけれど構わない。これは祈りだから。
山がある。寺がある。神々を感じる森がある。私は美しい空と海を眼下にキャミソールを脱ぎ、高台を蛇のように這い下りる。
廃線をたどって故郷のまちへ。携帯電話は圏外だ。いつ雨が降ってもおかしくない空の下、傘を捨て、財布も捨てた。もう何もいらない。
廃駅のトイレで思い出をすべて吐きだして、水の涸れた井戸でとぐろを巻く深夜。大自然に身を捧げるために、赤い落葉の沈む湖底をまっさらな気持ちで這う夜明け。蝶が舞うと風の吹くプラットホームで、私は新しいワンピースに袖を通す。
原色のきのこが茂る森の中から幼いキョンがこちらを見ている。
「禊は済んだわ。祈りたいの」
私は星を手繰るように訴えた。
「蛇になれる?」
「きっと」
「じゃあ神無月にまた来て。僕から話してみる」
公開:20/09/22 16:23

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