風邪とチーズ

18
8

母は厳しい人だった。
現代なら虐待に類別されるだろう、過剰な体罰も日常的に受けていた。
一緒に遊んだような記憶もほとんどない。
何か間違った(と、母が判断する)事があると、平気で拳が飛んできた。狂気混じりの怒号と、熱くて鈍い痛み。

そんな恐ろしげな母がほとんど唯一人間味を示すのが、私が風邪を引いた時だった。
枕元に白湯を置いてくれ、卵粥や、普段は控えさせられている甘い飲み物なんかも、用意してもらえた。

とりわけ私を喜ばせたのが、身体の熱があらかた抜け終えた後に出される、チーズフォンデュだった。
何種類かの溶けたチーズに食パンをつけて食べるだけなのだが、私にはそれが何よりのご馳走だった。
病が去り、日常を営む体力が回復すると、嬉しくなると同時にいつも、なんとも言えない寂しさを感じた。

大人になって初めて本格的なチーズフォンデュを食べた時、滅多に見せることのなかった母の笑顔を思い出した。
その他
公開:20/09/25 07:00
更新:20/09/20 22:33

レオニード貴海( 某海なし県 )

さまようアラフォー主夫

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容