リサイタル

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 隣のおっさんは、飼っていた鈴虫を離したらしい。その辺で捕まえた数匹の鈴虫が増えすぎたそうだ。
それから年々鈴虫の声が大きくなっている気がする。
 今年は極め付けに、彼の娘が小学校の先生になるとかで、「虫の声」を辿々しいピアノで練習している。
 ポーンポーンと、それに合わせて、ひたすら、バレーボールでラリーをする。
それがミサと僕の毎晩の日課だ。
 始めた時よりもだいぶ上手くなって、監督と生徒のように彼女を走り回らせることはなくなった。
彼女は、僕がたまに明後日の方向にはじく球を「ちょっと!」と笑いながら拾ってくれる。

ラリーの途中で、ミサが、あ!と声を上げた。
「ん?」
「今日バトミントンの試合テレビで見て、やりたいなって思ったの。今度バトミントンやらない?」
「・・・じゃあ、また仕事帰りにスポーツ屋が開いてたら買ってくるよ。」
嬉しい、と笑う彼女の笑顔に陰りはもうない。

 
その他
公開:20/09/20 20:06
更新:20/11/23 03:05

kashiku

ショートショートや、詩を思いつき次第のっけます。



noteもやってます

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