崖の上の孤狼

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若草の茂る急坂の先端に、小さな小屋があった。すぐ後ろは断崖になっている。

ある夜、彷徨える旅人が小屋を見つけた。男はへとへとになりながら斜面を登って、その木戸をノックした。中から、古びて色褪せた赤頭巾の女が出てきた。

「なんか食えるもんは、なかとでしょうか」
女はそれには応えず、額に手を当てて眩しそうに空を見た。雲間からは僅かに月光が漏れている。
さっと、部屋の中に入ると、たっぷりと林檎を載せた木籠を持ってまた戻ってきた。

「あ、あんがとおごぜえます」
林檎を貪った男は、どうか一晩だけ宿を恵んでくれないかと頼み込んだ。
女は首を振った。

旅人は小さく舌打ちをして、時間をかけて坂道を下って行った。
それを見ながら、女は呟いた。
「今夜は満月。生き延びたければ、早く逃げるのよ」

雲が割れ、月が顔を見せた。
女の影が伸び、彼女に取り込まれた狼の魂が、いままさに姿を示そうとしていた。
ファンタジー
公開:20/09/22 07:00
更新:20/09/19 14:58

レオニード貴海( 某海なし県 )

さまようアラフォー主夫

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