「もみあげはどうされますか？」

「もみあげはどうされますか？今なら、増量キャンペーン中ですよ」
「周りに揃えて自然に――って、え？増量ってなんですか？」
「ウチでは、もみあげの長さを伸縮自在に調節できるんです。短くすることはもちろん、腰の高さまで伸ばすことも思いのままですよ」
　店員の表情を窺うと、ニッコリと笑っている。どうやら、冗談ではないようだ。
「それって、エクステやウィッグとは違うんですか？」
「ええ。当店では、自然由来の成分を含む育毛剤で、もみあげを急速に伸ばします。もみあげ以外には効果が無いんですが……まずは、お試しでいかがですか？」
　店員が手に取った育毛剤の匂いを嗅ぐと、良い香りがする。なるほど、自然由来の成分とはこういうことか……海の香りだ。地元を思い出す、磯の香り。不思議と、ラーメンや蕎麦が食べたくなった。
　一か月後――災害時、僕のもみあげが非常食として役に立った話は、また別の物語である。