『桜花』

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森は暗く、心は細く削られた。

淡い緑色で花弁が描かれた『桜花』
ある画家のその絵画がサキは好きだった。本来とは違う色で描く手法は珍しくないが、旧校舎に描かれたその絵には、魔力めいた魅力があった。

「『桜花』のモデルになった木があるらしい」

ーーバキンッ

裏山の頂上へ深淵の暗い森を進む。小枝を踏む音が、サキを回想へと誘う。

代表選手に選出され、短距離ランナーとしてのサキの将来は、一年前のあの日、激痛を伴い左足と共に音を立てて折れてしまった。長いブランクはサキを苦しめ、周囲の落胆に走ることが怖くなった。桜は、夢を諦めかけたサキが縋る最後の希望だった。

「本当にあった…」
優しさをそのまま花びらにしたような、鮮やかな緑色の幻想の欠片を舞わせてそこに桜は鎮座していた。

その息吹に胸が熱くなり、どうしようもなく走り出したい気持ちに駆られた。

後のメダリストはインタビューでそう語る。
青春
公開:20/09/20 10:25
更新:20/09/20 15:59
御衣黄桜は実在する緑色の桜 仮面の画家④

空津 歩( 東京在住 )

空津 歩です。

ずいぶんお留守にしてました。

ひさびさに描いていきたいです!


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