傾聴
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その日、私はオフィスの移転を手伝う日雇いバイトに来ていた。トラックが着いたら順次荷物を運び入れるというだけの単純労働である。ところが何の手違いか、トラックが一向に到着しない。私を含む30名ほどのスタッフは、やる事もなく、空っぽの新オフィスの床にだらりと座り込んで時間を潰すしかなかった。私の傍に座っていた男は司法書士を目指していると言った。まだ若かった私はそれがどんな職か知らなかったもので、好奇心から尋ねてみた。すると、この男は意気揚々と法律を学ぶ苦労について熱く語り出した。残念ながらその内容は理解できなかったが、他にやることもなかったので、私はただ相槌を打ち続けた。ふと顔を上げると男は「…それが憲法なんだよ」と言いながら涙を流していた。「え!」と私は驚き、たじろいだ。私はただ聞くフリをしていただけなのだが、ガシッと手を掴まれて「ありがとう!」となぜか感謝された。私は返事に微妙に困った。
その他
公開:20/09/17 21:37
実話です
最近は小説以外にもお絵描きやゲームシナリオの執筆など創作の幅を広げており、相対的にSS投稿が遅くなっております。…スミマセン。
あれやこれやとやりたいことが多すぎて大変です…。
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