遠洋漁業

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秋の雨が降りつづく午後に珍しく自習室にいた。部屋には他に彼だけだ。いつか同じクラスにいたが話もしない彼がテーブルの向こう側に座る。突然に彼が「こんな問題わからない」といって紙をくしゃくしゃにして丸めた。目があった。僕はその数学の問題を解いてやった。しばらくするとまた紙をくしゃくしゃにしたので次の問題も解いてやった。彼は解いた紙切れをまた丸めて、振り向かず後ろに投げると隅にあるゴミ箱にすぽりと入った。僕も紙を丸めてゴミ箱に投げた。つづいて彼は鼻水をすすりながら鼻をかんだ紙を投げ入れる。僕はまた紙切れを投げる。二人でゴミ箱に投げ入れた。幾何学だったか積分だったか確率の問題だったのか覚えていない。
校舎の横を走る電車でときどき振動した。信号の点滅が見えた。
彼とはそれきり会うことがなかったが、無事大学に入ったと聞いた。十数年後、卒業し就職して遠洋漁業に行ったままだという噂を聞いた。
その他
公開:20/09/17 14:16

たちばな( 東京 )

2020年2月24日から参加しています。
タイトル画像では自作のペインティング、ドローイング、コラージュなどをみていただいています。
よろしくお願いします。

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