ギリギリの愛

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「香奈…ここに居たのか」
「雄二…」
1年、探し続けた。消えた恋人は地方の安アパートに居た。
玄関に一歩踏み込む。ぎしりと、建物が軋む音が響く。香奈は後退る。
部屋を見渡す。本棚と本が部屋中を埋め尽くしていた。机の上にノートパソコンが光っているのが見える。小説で生計を立てているという調査結果は真実のようだ。
「来ないで…」
香奈は目を潤ませていた。怯える様は捕食者に出会った小動物のようだ。
「なあ香奈、またやり直さないか」
「気持ちは嬉しい。私もそうしたい。でも…」
雄二は靴を脱ぎ、廊下に足をかけた。香奈は掌を前に突き出した。
「来ないで!」
香奈の顔は紅潮していた。息が、荒い。
「香奈、どうしてだ。もう俺たちは終わりなのか」
雄二はどんどんと廊下を進む。建物の軋みは大きくなる。床から、何かが折れる音がした。
「だから来ないでってえええ!」
床は大きな音を立てて、抜けた。
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公開:20/09/17 13:24

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