別れのお茶

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「お茶には境界を区切るとか越えるとか、そんな意味がありまして。飲むことで、別れを確かなものとするんですよ」
霊園スタッフの男はそう言ってお茶を淹れると、静かに部屋を出て行った。
ポツンと置かれた湯呑に手を伸ばす。食道から落ちた熱が胸で渦を巻いた。
少しして、私は席を立った。部屋を出て、エントランス脇にあるトイレに向かう。
不意に、後ろから光が差した。振り向くと、光を背にした女がひとり立っている。
白い手に誘われ、一歩踏み出す。
「ワン!」

「……――さま、中村様」
そこでハッと目が覚めた。どうやら火葬を待つ間、眠ってしまったらしい。
愛犬コロの納骨を見届け、門まで見送りに来た男に頭を下げる。
「ちゃんとお別れできたようですね」
顔を上げると、男の横にコロが座っていた。その後ろでは、耳や尻尾や羽の生えた人たちが楽しそうに駆け回っている。
目を擦り、視線を戻すと、そこには男がいるだけだった。
ファンタジー
公開:20/09/16 18:18

スズキリネン( 千葉 )

どうやったら面白い作品が書けるのか、日々試行錯誤中。

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