栞の木

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やっとの思いで獣道を抜けると、そこには栞の木がそびえ立っていた。
それぞれの枝は、桜の花びらのようにたくさんの栞をつけている。
僕はその美しさにしばらく圧倒された。
そのせいで、木の根元に座る男の存在になかなか気がつかなかった。
「あなたは?」
僕は木に近づき尋ねた。
「ここの番人みたいなもんだよ。ところで、ここに来たのは偶然?」
「いえ。栞の木のことは前から知っていて、探して来ました」
そう答えると、男は木からひとつの栞をもぎ、僕に手渡した。
「ん?文字が……」
栞には小さな文字でびっしりと何かが書かれていた。
「それは物語が書いてある。栞の木は本を養分にして育つんだけど、あげる本の種類でなにが書かれるのかが決まるんだ」
男は木を見上げて続けた。
「この木はショートショートで育ってる。だから何十、何百の栞はそれぞれ違うショートショートが書いてあるんだ」
風が吹き、ざあっと栞が揺れた。
公開:20/09/16 23:01

田坂惇一

ショートショートに魅入られて自分でも書いてみようと挑戦しています。
悪口でもちょっとした感想でも、コメントいただけると嬉しいです。

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