ある夜のお話

2
3

真夜中、わたしたちは海岸で恋の話をしていました。
もうなんじかんも飽きることなく恋の話をしていました。

ねえ、見て。
私は紺色の空を指さしました。
ふと見上げるとそこには三日月がぽかりと浮かんでいて、その滑らかな部分から次々と人が舞い降りてくるのです。
かっちりとしたゴーグルとシュノーケル、それから大きな足ひれをつけた水色の仲間みたいなダイバーたちが、しゅしゅ、しゅしゅしゅとこの世界に降ってくるのです。
月だと思っていたものはどうやらこの世界へのエントランスのようでした。彼らは空に入ったかと思うと逆さまになったり平泳ぎをしたり、思い思いにすいすいすいと実に気持ちよさそうに泳いでいるではありませんか。
私たちはぽかんと口をあけしばらくそれを見ていました。だけど気が付くとふたつの影は何事もなかったかのようにまた元の形に戻っていきました。だって私たちは他でもない恋の話をしていましたから。
青春
公開:20/09/16 20:15

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容