深海の人

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夜の公園のベンチで寝ぼけていると、「隣、いいですか?」と上から声が。
何だろうと思って顔を上げると、彼女は、深海の人だった。
深海の人を見たのは久しぶりだったので、俺は嬉しくなって、「空、綺麗ですね。」と声を掛けた。
空は満天の星空だった。時々流れる赤や青の星が綺麗だった。
ふと、隣の彼女の目を見た。彼女の目は、光の落窪んだ群青の独擅場だった。彼女の瞳と夜の空気の境には張り詰めた表面張力の美しさがあった。もし水を一滴垂らせば、彼女の瞳か、空気かが壊れてしまいそうだった。
彼女と目が合った。少し見つめ過ぎた。
ふふ、と彼女は笑った。
「私の顔に何かついてますか?」
「イエ、何モ。」
声が上ずってしまった。恥ずかしくなって俯くと、彼女はまた、笑ってくれた。
「見て下さい。あれが、そうですよね?」
彼女が上を指さした。
「…そうです。あれですね。」
私達は黙って手のひらを重ね合わせた。
その他
公開:20/09/15 17:38

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